#004|生活保護者の増加
カテゴリー:現象
ある言葉を聞いたとき、
私たちはつい、「知っている」と思い込んでしまいます。
でもその言葉が、あなたのなかで
何かを揺らしたり、風景を変えたことはあったでしょうか。
このページは、「知っているつもりの言葉」から、
「語れる言葉」へと変わっていく小さな旅です。
言葉の入り口 ― “知っているつもり”から解放する
「生活保護者」とは、憲法第25条の「生存権」に基づき、国や自治体から最低限度の生活を保障される制度の受給者を指します。 高齢単身者や障害者、失業者、ひとり親など、経済的に自立が困難な状況にある人々が、生活保護の対象となります。
近年では、特に高齢者の単身世帯の割合が増加しており、 かつて多かった「母子世帯の保護」から、構造的な変化が進んでいます。
この現象は、「雇用の再起困難 × 支援制度の複雑化 × 孤立高齢者の増加」の組み合わせで発生しています:
- 雇用の再起困難(商財):長期離職や高齢化により、再就職の選択肢が著しく限られている。
- 支援制度の複雑化(文化財):制度が複雑で煩雑、また利用が恥とされる空気が受給を阻む。
- 孤立高齢者の増加(人財):地域とのつながりを失い、頼れる人がいない高齢者が制度に頼らざるを得ない状況に。
- 制度負担の集中: 高齢者単身世帯の増加により、医療・住宅扶助が恒常的に膨らみ、財源と人手の持続性が問われている。
- スティグマと申請忌避: 生活保護を「恥」と捉える社会的偏見が根強く、制度があるのに“届かない”層が増えている。
- 地域の孤立構造: 申請者の多くが地域との接点を失っており、「見えないままの困窮」が孤立死や無縁社会を引き起こしている。
絵に宿る象徴 ― 言葉にならないものが、そこに佇んでいる
象徴 | 一般的な解釈 | カードを通した解釈 |
---|---|---|
仮面 |
匿名性・役割・仮の顔 本心や個性を隠す象徴として古くから使われる。 |
声なき存在 仮面は守りでもあり、隔てもある。 個としての声を社会が受け取っていない証。 |
白紙の申請書 |
手続き・制度・要請 意思表示や受給申請の入口を示す道具。 |
失われた自己表現 紙は声の代わりにはなれない。 必要なのは支援ではなく、まず対話。 |
円形の大広間 |
公開空間・保護・全体視線 包囲と監視の象徴でもある構造的建築。 |
透明な孤立 見られているのに、声は届かない。 守られているようで、取り残されている空間。 |
二つの物語 ― 立場が変われば、真実もまた揺らぐ
「生活保護って、最後の手段なんでしょう?」
そう言ったのは、近所のスーパーのパートを辞めたあと、体調を崩して自宅にこもっていた母だった。
年金もない。貯金も底をついた。けれど母は「まだ何とかなる」と言い続けた。
電気ポットのコードを抜く。米は1日1合まで。ご近所との付き合いは、「迷惑をかけたくないから」と避ける。
助けを呼ぶ声を、母は「恥」と呼んだ。
ある日、区役所に同行してみた。
窓口で対応してくれた若い職員は丁寧だったが、「この制度は“自立を前提”としています」と、説明を繰り返した。
それは正しい。でも、母には届いていなかった。
帰り道、母は小さく言った。
「……自立って、誰にも頼らないってこと?」
その問いに、私は答えられなかった。
社会に残された最後の制度でさえ、“自助”を前提にするのだとしたら、その前段階で転落する人は、どうしたらいいのだろう。
福祉課で働いて5年目。申請者が増えている。
でも、それは「必要な人が助けを求めている」からではない。
本当に必要な人は、制度の“外”にいる。
──無戸籍のまま大人になった女性
──DVで住民票を移せない母親
──固定電話もなく連絡がつかない高齢者
申請書を出せる人は、まだ“つながっている人”だ。
私たちの制度は、「つながれる人」しか救えない。
窓口に来た一人の男性。半年前、生活保護の申請を断られたという。
「働けるって言われた。でも求人は“40歳以下”ばかりだったよ」
制度の基準は、理屈として正しい。でも、現実の条件とはズレている。
だから私は、書類よりもまず話を聞くようにしている。
履歴書よりも、生活の履歴。貯金残高よりも、孤立の深さ。
それが制度の内側にいる者の、最低限の責任だと思っている。
詩の余白 ─ 語られなかった想いが、行間で息をする
声を通さない硝子のベール。
キラキラ輝いて見えていても、
本音が聞こえない世界にいる。
孤立が過ぎれば孤独になる。
世間に声は、響かない。
言葉を再定義する ─ “知っていた”を超えていくために
“生活保護”とは、
制度と個人との〈距離〉があらわになる社会の鏡です。
かつて生活保護は、「最後のセーフティネット」と呼ばれてきました。
けれど今、制度があること」と「それが届くこと」のあいだに、
深い隔たりが広がっています。
申請できる人とできない人、
声を上げられる人と、沈黙を選ばざるを得ない人。
その構造は、単なる支援ではなく、社会の関係性の欠如を浮かび上がらせます。
しかし、そうした断絶の只中にこそ、
制度を“人が人として扱う”可能性が眠っているのかもしれません。
― あなたにとって、“生活保護”とはどんな意味を帯び始めていますか?
誰かの定義ではなく、
あなた自身の言葉で、そっとこの言葉に息を吹き込んでみてください。
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