#003|固定化する子どもの貧困
カテゴリー:現象
ある言葉を聞いたとき、
私たちはつい、「知っている」と思い込んでしまいます。
でもその言葉が、あなたのなかで
何かを揺らしたり、風景を変えたことはあったでしょうか。
このページは、「知っているつもりの言葉」から、
「語れる言葉」へと変わっていく小さな旅です。
言葉の入り口 ― “知っているつもり”から解放する
「子どもの貧困」とは、経済的に困難な環境に置かれ、教育・生活・将来の選択肢に制限がかかる状態を指します。特に一人親世帯の貧困率は40%を超える現状が、日本社会の深刻な課題として存在しています。
特に日本では「相対的貧困」という概念が用いられることが多いです:
- 絶対的貧困:生きていくために最低限必要な食料や衣類、住居などを確保できない状態を指します。発展途上国でよく見られる、命の危険に直結するような深刻な貧困です。
- 相対的貧困:その国や社会全体の生活水準と比較して、多くの人が享受している生活水準を送れない状態を指します。日本ではこの相対的貧困が問題となっています。具体的には、世帯の所得が、国民全体の所得の中央値の半分に満たない状態を「相対的貧困」と定義しています。
📌 日本の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は、2021年の新基準で年間一人当たり約127万円未満。
親子2人世帯の場合、月収がおおよそ14万円以下で暮らしている状況が相対的貧困の目安とされます。
この現象は、「非正規雇用の定着 × 食文化の断絶 × ひとり親世帯の孤立」の組み合わせで発生しています:
- 非正規雇用の定着(商財):低賃金・不安定な就業形態の拡大により、家計の持続性が損なわれている。
- 食文化の断絶(文化財):地域や家庭の中で「共に食べる」営みが失われ、心の栄養が届かなくなっている。
- ひとり親世帯の孤立(人財):支援制度の隙間に落ち、孤立したまま日常を支える親と子が増加している。
- 教育格差: 進学率・学習習慣の差が固定化
- 心の健康: 自己肯定感や他者信頼の喪失
- 未来への閉塞感: 選択肢を持てず、貧困が世代を超えて継続する
絵に宿る象徴 ― 言葉にならないものが、そこに佇んでいる
象徴 | 一般的な解釈 | カードを通した解釈 |
---|---|---|
りんご |
知恵・豊かさ・誘惑 神話では知の目覚めや禁忌を表す果実。 |
かじられた知恵 空腹が意志より先に口を動かす。 選び取った果実ではなく、与えられた現実の味。 |
秋の食卓 |
実りと団らん 収穫と共に、分かち合いを意味する空間。 |
孤独な実り 並べられた食材に誰の気配もない。 豊かさが関係性と結ばれていない空虚。 |
風に舞う髪 |
季節・はかなさ・変化 自然に流される存在の脆弱さ。 |
見えない時間 風に溶けゆく髪が語る静かな遅れ。 季節は変わるが、暮らしは変われない。 |
二つの物語 ― 立場が変われば、真実もまた揺らぐ
――市役所 子育て支援課・北沢麻衣(32歳)
春、生活福祉課から転任してきたとき、
「ここは一番泣かれる課」と聞かされた。
母親の来庁率が異様に高い。
朝9時、名前を呼ばれるたびに、ぎこちない声が響く。
「…児童扶養手当の、再申請なんですけど」
北沢は制度の説明を丁寧に繰り返す。
“基準額は○円以上、所得の控除はこちら”
数字と条件に感情はない。
でも、その隣にいる子どもの靴が擦り切れていたら、
彼女の胸も、やっぱり揺れる。
先月、再申請を却下された母親が声を荒らげた。
「月に3回だけ残業しただけで収入オーバーって何なの!」
それに返せる言葉はなかった。
「制度を守る」ことが、誰かの希望を断つことなら。
でも、「線引き」がなければ、制度は壊れてしまう。
夜、帰宅途中のスーパーで、
一人で割引総菜を抱える母親を見た。
彼女が涙ぐみながら、子どもに「今日は唐揚げだよ」と言う姿に、
北沢は目を逸らせなかった。
制度は、冷たい。
でも、冷たさの中でしか守れないものがある。
だから、今日も正確に、静かに、判断する。
――一人親・吉田歩美(35歳)
息子の給食費を滞納した月、
“ちゃんとしてください”という手紙が届いた。
「ちゃんと」とは、なんだろう。
夜勤のあと、1時間だけ清掃のバイトをして、
午後は子どもの面談に出て、
夜はまた8時間立ちっぱなし。
そんな暮らしのどこに、ちゃんとできる余白がある?
市役所で申請の説明を受けたとき、
窓口の女性は優しく笑っていた。
「制度上、今月の収入ですと該当しませんが…」
“でも頑張ってますね”とも“ごめんなさいね”とも言わない。
歩美は思った。
この国には、頑張ったら制度から外れるという仕組みがあるんだ。
それでも、支援を拒むわけじゃない。
本当は、心から頼りたい。
ただ、“申し訳なさ”と“子どもへの後ろめたさ”が重なって、
申請書を出す手がいつも震える。
秋、学校のバザーで、息子がクラスの子に言っていた。
「うち、唐揚げの日は贅沢するんだ」
それを聞いて、笑いそうになって、泣きそうになった。
ちゃんと育ってる。
十分すぎるくらい、ちゃんと。
詩の余白 ─ 語られなかった想いが、行間で息をする
空腹は黙っている。
でも、皿の上には確かに“何か”がない。
笑い声のない食卓を、
子どもは覚えている。
ずっと、忘れないまま。
言葉を再定義する ─ “知っていた”を超えていくために
“子どもの貧困”とは、
生きる希望と、社会の構造との〈断絶〉があらわになった風景です。
かつて貧困とは「物が足りない」ことでした。
けれど今、「関係が結べない」ことが、
子どもたちから未来を描く力を奪っています。
制度はあっても届かず、声があっても届かない。
日々の暮らしの中で、“当たり前”が当たり前でなくなるという沈黙が広がっています。
しかし、その不均衡のなかにこそ、
新たな連帯や見落とされた小さな光が潜んでいるのかもしれません。
― あなたにとって、“子どもの貧困”とはどんな意味を帯び始めていますか?
誰かの定義ではなく、
あなた自身の言葉で、そっとこの言葉に息を吹き込んでみてください。
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